マンション・アパート解体前の「立ち退き」の進め方|立退き料の相場・交渉手順・逆算スケジュール

2026/09/10更新
<解体業者が教える3つのポイント>
・マンション・アパート解体前の「立ち退き」の進め方がわかる
・立退き料の相場・交渉手順・逆算スケジュールを細かく解説
2 着手前に確認すべき3つのこと|契約形態・入居状況・建物の現況
1. 解体工事は「全戸が空くこと」からしか始まらない

アパートやマンションの解体でご相談をいただくとき、費用や工期のお問い合わせが先に来ます。
ただ、実務上いちばん時間がかかり、いちばん計画が狂いやすいのは、解体工事そのものではなく「立ち退き」です。
解体は、1戸でも入居者が残っていれば着手できません。
建物の一部だけを壊すことは構造上できませんし、居住者がいる建物に重機を入れることは当然できないからです。
そして立ち退きは、こちらの都合だけで進められる手続きではありません。
借地借家法という法律が借主を強く保護しているため、「解体するので出ていってください」だけでは通らないというのが大前提になります。
実際、当社にご相談いただく案件でも、解体工事そのものは2〜3か月なのに、その前段の立ち退きに1年近くかかったというケースは珍しくありません。
土地の売買や建替えの計画がある場合、この期間を読み違えると、事業全体のスケジュールが崩れます。
この記事では、立ち退きの法的な前提、立退き料の相場、そして解体着工から逆算した現実的なスケジュールを整理します。
2. 着手前に確認すべき3つのこと|契約形態・入居状況・建物の現況

動き出す前に、必ず手元で整理しておくべき情報が3つあります。
① 各部屋の契約形態と満了日
普通借家契約か、定期借家契約か。これによって手続きがまったく変わります。
定期借家であれば期間満了で契約は終了し、原則として正当事由も立退き料も不要です。
一方、普通借家契約の場合は後述する正当事由が必要になります。全戸分の契約書を並べ、契約種別・期間満了日・現在の賃料を一覧にしてください。この一覧が、そのままスケジュールの骨格になります。
② 入居者の属性と残存戸数
高齢の単身世帯、小さなお子さんのいる世帯、店舗として使っている区画、長年住んでいる方——それぞれ移転の難易度が違います。
特に高齢の入居者は、転居先の審査が通りにくいという現実的な壁があり、代替物件の情報提供まで踏み込まないと話が前に進まないことがあります。
③ 建物の現況を客観的に示せるか
「老朽化しているから」という主観だけでは、正当事由の裏付けとしては弱いのが実情です。
耐震診断の結果、外壁や躯体の劣化状況の記録、修繕にいくらかかるかの見積——こうした客観的な資料が揃っているかどうかが、後の交渉と、万一の法的手続きの両方で効いてきます。
3. 立ち退きの法的な前提|「正当事由」と通知期限

普通借家契約の場合、貸主が契約を終わらせるには、次の2つが必要です。
通知の期限 期間の定めのある契約では、期間満了の1年前から6か月前までの間に更新拒絶の通知を出す必要があります(借地借家法26条)。
この期間を過ぎると契約は自動的に更新(法定更新)され、次の機会まで待つことになります。期間の定めのない契約では、解約の申し入れから6か月の経過が必要です(同27条)。
正当事由 通知を出しただけでは足りません。
借地借家法28条により、更新拒絶や解約申し入れには「正当の事由」が必要とされ、その判断では次の要素が総合的に考慮されます。
- 貸主・借主それぞれが建物の使用を必要とする事情
- 賃貸借に関するこれまでの経過
- 建物の利用状況および建物の現況
- 立ち退き料など、財産上の給付の申し出
重要なのは、老朽化していることだけで正当事由が自動的に認められるわけではないという点です。
裁判例では、耐震性の不足を客観的な診断で示せているか、補強工事では対応できないと言えるか、建替え計画が具体的かといった点が問われます。そして多くの場合、立退き料の提供によって正当事由が補完されるという構造になっています。
4. 立退き料の相場と内訳|居住用と店舗・事務所の違い

立退き料に法定の金額はありません。
「賃料の◯か月分」という決まりも存在しません。ただし実務上は、次の要素を積み上げて金額を組み立てるのが一般的です。
立退き料の主な内訳
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 移転実費 | 引越費用、転居先の敷金・礼金・仲介手数料、原状回復費用 |
| 賃料差額の補償 | 転居先との賃料差額×一定期間(1〜2年分程度) |
| 迷惑料・借家権相当額 | 借主が失う利益に対する補償 |
| 営業補償(店舗のみ) | 休業損害、内装・造作の残存価値、顧客喪失分 |
金額の目安
居住用の場合、ワンルームや単身向けであれば賃料の6か月分前後、ファミリー向けで賃料6か月分〜1年分程度が一つの目安になります。
金額としては数十万円から100万円台のレンジに収まることが多いという印象です。
ただし、裁判例では賃料2年分、あるいは移転費用に加えて賃料4年分相当という判断が出たケースもあり、双方の必要性のバランスによって大きく振れることは押さえておく必要があります。
耐震性の不足を客観的に立証できていない場合ほど、金額は上振れする傾向があります。
店舗・事務所の場合は桁が変わります。
営業補償と造作の残存価値が加わるため、数百万円から1,000万円を超えることも珍しくありません。1階に店舗テナントが入っているアパートやマンションでは、この1区画が計画全体のコストを左右します。
5. 【逆算スケジュール】解体着工の12か月前から動く
普通借家契約の入居者が複数残っている物件で、解体着工から逆算した現実的な進め方です。
12か月前|現況把握と方針決定 契約一覧の作成、耐震診断・劣化調査、解体費用の概算取得、立退き料の総額予算の設定。あわせて新規募集を停止します。この時点で解体業者に概算見積を依頼しておくと、事業全体の収支が見えます。
10〜12か月前|通知の発送 契約期間の満了日から逆算し、期限内に更新拒絶の通知を発送します。内容証明郵便で記録を残すのが基本です。
8〜10か月前|個別説明と条件提示 全戸一斉の書面だけで済ませず、個別に事情を伺う場を設けます。この段階で転居先の情報提供まで用意できるかどうかが、その後の進み方を大きく変えます。
5〜8か月前|交渉と合意書の締結 条件がまとまった世帯から、退去日・立退き料の額・支払時期・原状回復の取り扱いを明記した合意書を締結していきます。
3〜5か月前|順次退去・空室化 退去した部屋から鍵を回収し、残置物の有無を確認。この時点で残っている世帯への対応方針を再検討します。
2〜3か月前|解体の実務準備開始 全戸退去のめどが立った段階で、アスベストの事前調査、解体の本見積、工程表の確定に入ります。
1か月前|届出とライフライン停止 建設リサイクル法の届出(着工7日前まで)、特定建設作業の届出(作業開始7日前まで)、アスベストのレベル1・2があれば作業開始14日前までの届出。電気・ガス・水道の停止と引込管の撤去も、この時期に手配します。
着工
全体で約1年。
店舗テナントが入っている、あるいは高齢の入居者が多い物件では、さらに半年程度の余裕を見ておくべきです。
6. 交渉を長引かせないための5つのポイント
① 早い段階で新規募集を止める
建替え・解体の方針が固まった時点で募集を停止し、自然退去による空室化を待つ。これがもっともコストの低い方法です。方針決定が早いほど、交渉が必要な世帯数は減ります。
② 全戸一律の条件で提示しない
入居年数、世帯構成、賃料はそれぞれ違います。一律の金額を機械的に提示すると「なぜこの額なのか」の説明がつかず、かえって不信感を招きます。内訳を示せる形で組み立ててください。
③ 転居先の選択肢まで用意する
特に高齢の入居者にとって、金銭よりも「次に住む場所が見つかるか」のほうが切実です。提携する不動産会社を通じて具体的な物件を提示できると、交渉は一気に前進します。
④ 合意した内容は必ず書面に残す
口頭で「来月末には出る」と言われていても、退去日が動くことはあります。退去日、立退き料の額と支払時期、鍵の返却、残置物の扱いまで明記した合意書を交わしてください。
⑤ 解体業者と情報を共有しておく
「何月に全戸退去の見込みか」を業者側が把握していれば、逆算して調査・届出・重機と職人の手配を組めます。逆に、退去完了の連絡が突然来ると、そこから着工まで1〜2か月かかることになります。
7. こじれた場合の選択肢|調停・訴訟にかかる時間
交渉が成立しない場合、民事調停や建物明渡請求訴訟に進むことになります。ここで押さえておくべきは、時間の感覚です。
調停で数か月、訴訟になれば第一審だけで半年から1年以上、控訴されればさらに延びます。
判決が出ても、任意に退去しなければ強制執行の手続きが必要です。つまり、法的手続きに入った時点で、解体着工は1年以上先になる可能性が高いということです。
そのため実務では、訴訟に進むより、立退き料を上積みして合意で解決するほうが、時間的にも金銭的にも合理的だと判断されるケースが多くあります。
訴訟に進むかどうかは、こうした時間コストも含めて、弁護士とご相談のうえ判断されることをおすすめします。
なお、貸主本人や管理会社以外の第三者が報酬を得て立ち退き交渉を代理することは、弁護士法上の問題があります。解体業者が交渉を代行することはできませんので、この点はご注意ください。
※本記事は解体工事業者の立場から、実際の現場で起きていることを整理したものです。法律の解釈や個別の契約に関する判断は、必ず弁護士等の専門家にご相談ください。
8. 立ち退きと並行して進めておくべき解体側の準備

立ち退きに目星がついてから、解体業者を探し始めてみてください。
- 解体費用の概算取得:立退き料の予算と合わせ、事業全体の収支を早期に確定できます
- アスベストの事前調査:共用部や外部からの調査は、入居中でも実施できる範囲があります。分析に1〜2週間かかるため、先行できれば着工が早まります
- 境界・越境物の確認:隣地との境界、越境した庇や配管の有無を事前に整理しておく
- 近隣への周知計画:建替えを伴う場合、解体の説明と新築の説明は別物です。順序を整理しておく
立ち退きが終わっていない段階で見積もりを取っても、部屋の中の状態を正確に掴めないまま、概算の見積もりになってしまって正確な解体費用が掴めない場合も多いです。
9. よくある質問
Q1. 立退き料は必ず支払わなければいけませんか?
A. 法律上「必ず支払え」という規定はありません。ただし実務上は、立退き料の提供が正当事由を補完する要素として位置づけられているため、普通借家契約の入居者に退去を求める場合、支払いを前提に計画を立てるのが現実的です。定期借家契約であれば、期間満了による終了として、原則不要です。
Q2. 建物が古くて危険な状態なら、正当事由は認められますか?
A. 老朽化という事実だけでは足りません。耐震診断による客観的な数値、補強工事の見積と実現可能性、建替え計画の具体性——これらをセットで示せて初めて説得力を持ちます。逆に、資料が揃っているほど立退き料の水準は下がる傾向があるため、診断や調査は交渉コストを下げる投資とも言えます。
Q3. 1世帯だけ応じてくれない場合はどうなりますか?
A. その1戸が空かない限り、解体には着手できません。選択肢としては、条件の見直し、転居先の再提案、それでも合意に至らなければ法的手続きです。全体スケジュールへの影響が大きいため、早い段階で「難航しそうな世帯」を見極め、そこに時間と条件を集中させるのが定石です。
Q4. 定期借家契約なら、何もしなくても期間満了で出てもらえますか?
A. 契約期間が1年以上の定期借家では、期間満了の1年前から6か月前までの間に「契約が終了する旨」の通知を出す必要があります。この通知を怠ると、期間が満了しても借主に終了を主張できなくなります。定期借家だからと安心して通知を忘れるケースが実際にありますので、契約書と期日の管理は必須です。
Q5. 支払った立退き料は経費になりますか?
A. 建替えのために支払う立退き料は不動産所得の必要経費、土地売却のために支払う場合は譲渡費用として扱われるなど、目的によって取り扱いが変わります。金額が大きく、課税への影響も大きい部分ですので、必ず税理士にご確認ください。
Q6. 立ち退き交渉を管理会社や解体業者に任せられますか?
A. 管理会社が管理業務の一環として連絡や調整を行うことはありますが、報酬を得て交渉そのものを代理できるのは弁護士だけです(弁護士法72条)。解体業者が交渉を代行することはできません。当社がお手伝いできるのは、解体費用や工期の情報提供、建物の現況調査といった、判断材料をお出しする部分になります。
Q7. 全戸退去してから、解体着工まではどれくらいかかりますか?
A. アスベストの調査・分析が済んでいれば3〜4週間程度、これから調査する場合は1.5〜2か月を見てください。届出には法定の期限(建設リサイクル法は着工7日前、アスベストのレベル1・2は作業開始14日前)があり、ここは短縮できません。だからこそ、入居中に調査だけ先行させる意味があります。
Q8. 空室が増えてきた段階で、解体の見積は取れますか?
A. 取れます。むしろその段階でお声がけいただくのが理想的です。入居中でも外観・共用部・図面から概算はお出しできますし、立退き料の予算と解体費用を合わせた総額が見えることで、「建替えるか、更地で売るか」の判断そのものが早くなります。
10. まとめ
アパート・マンションの解体において、工期の大半を占めるのは重機が動いている期間ではなく、その前の立ち退き期間です。普通借家契約の入居者が複数いる物件では、方針決定から着工まで1年前後を見ておくのが現実的なラインになります。
そして、この期間を短くする最大の要素は、早く動き始めることです。募集停止の判断、耐震診断、解体費用の概算把握——いずれも入居者が残っている段階から着手できます。
マンション・アパート解体前の「立ち退き」の進め方の注意すべきポイントと流れは掴めましたでしょうか?
最近は、弊社でもマンション・アパートの解体のご依頼をいただくことも増えてきています。
マンション・アパートですとお住まいの方には思い入れの深い大事な住居ですし、気を遣う部分が通常の解体とは異なるポイントもいくつかございます。
解体するって、意外といろんなことに気を遣って進めているのがわかっていただけたかもしれません笑
お見積り時点で、事前に施工計画をしっかり説明してくれる解体業者に発注することをお勧めします。
「建物を壊して更地になってしまえば、どこに頼んでも同じ。」
そんなことはありません。
費用の比較ばかりで解体業者を選ぶと、こんなところで痛い目に合ったりします。
お客様が本当に信頼できる一社を探してみてくださいね。
【解体業者へ直接発注】解体費用を抑えながら高い施工技術を実現します
解体業界では、価格比較サイトがとても増えました。複数業者の相見積もりで価格を比較して、お客様に選んでもらうシステムです。
確かに、業者同士でお見積りを競い合わせれば、お客様のお支払いする解体費用は安くなると思います。
ただ、あまりに行き過ぎた価格競争によって、現在では本来必要とされる正しい施工計画で解体をなされない現場が増えてきている懸念を感じています。
価格比較サイトのデメリット
・価格比較サイトから解体業者に紹介料マージンが10~20%発生している
・一人親方や数人規模の業者が多いため、施工技術にムラがある場合がある
・解体費用は安くなる一方で価格競争になる分、施工管理が煩雑になる場合がある
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解体業者へ直接発注で紹介料マージンを抑えながら、、、
騒音・粉塵など近隣への配慮が必要な現場
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アスベストがあって規則に沿った対応をすべき現場
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マンション・アパートの解体は、ぜひリプロにご相談いただけると幸いです。
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