老朽化マンションは「建替え」か「解体して敷地売却」か?区分所有の合意形成と決議要件

2026/09/16更新
<解体業者が教える3つのポイント>
・老朽化したマンションの「建替え」か「解体して売却」かの進め方がわかる
・区分所有の合意形成と逆算スケジュールを細かく解説
・2026年4月1日に施行された改正区分所有法について解説
※本記事は解体工事業者の立場から制度の概要と実務の流れを整理したものです。個別の決議要件の該当性や手続きの判断は、弁護士・マンション管理士等の専門家にご確認ください。
1. 2026年4月、老朽化マンションの「出口」が増えた

築40年、50年を超えるマンションの管理組合から、「この建物をどうするか」というご相談をいただく機会が増えています。
「修繕積立金が足りない、空き住戸が増えた、耐震性に不安がある」
理由はさまざまですが、共通しているのは「決められない」というお悩みです。
区分所有マンションは、1人のオーナーの判断で壊すことができません。
数十人、数百人の区分所有者全員が関係する意思決定になるため、要件を満たす決議が成立しなければ何も動きません。
実際、これまで「建替え」以外の選択肢はほぼ全員同意が必要で、事実上の手詰まりになっている物件が数多くありました。
この状況が、2026年4月1日に施行された改正区分所有法で大きく変わりました。
建替え以外に「建物の取壊し」「建物と敷地の売却」「一棟リノベーション(建物更新)」といった決議制度が新設され、いずれも全員同意ではなく多数決で決められるようになったのです。
この記事では、解体工事を請け負う立場から、「建替え」と「解体して敷地を売る」という二つの現実的な選択肢を比較し、決議要件と合意形成の進め方を整理します。
2. 選択肢の全体像|修繕・建替え・更新・取壊し・敷地売却

老朽化マンションの出口は、大きく次の5つに整理できます。
① 修繕・改修を続ける
大規模修繕を重ねて寿命を延ばす。
最も合意を得やすい一方、積立金が尽きれば先送りにしかなりません。
② 建替える
既存建物を解体し、新しいマンションを建てる。
容積率に余裕があれば、増えた住戸を分譲して事業費を賄えます。
③ 建物更新(一棟リノベーション)
躯体を残し、設備・内装・外装を一新する。
解体・新築より工期と費用を抑えられる新しい選択肢です。
④ 取壊して更地にする
建物を解体し、土地は区分所有者で共有したまま、あるいは分割して保有する。
⑤ 建物と敷地を売却する/解体して敷地を売却する
第三者に売却し、代金を持分に応じて分配して終わる。
区分所有関係そのものを解消する方法です。
このうち③④⑤は、改正前は原則として全員同意が必要でした。1人でも反対すれば進まなかったものが、多数決で決められるようになったことが今回の改正の核心です。
3. 【早見表】改正区分所有法の決議要件
2026年4月1日以降に招集された集会から、次の要件が適用されます。
| 決議の種類 | 原則 | 特定要件に該当する場合 |
|---|---|---|
| 建替え決議 | 区分所有者・議決権の各5分の4以上 | 各4分の3以上 |
| 建物更新決議(一棟リノベ) | 各5分の4以上 | 各4分の3以上 |
| 建物敷地売却決議 | 区分所有者・議決権・敷地利用権持分価格の各5分の4以上 | 各4分の3以上 |
| 建物取壊し敷地売却決議 | 同上 | 各4分の3以上 |
| 取壊し決議 | 区分所有者・議決権の各5分の4以上 | 各4分の3以上 |
「特定要件」とは、次の5つのいずれかに該当する場合を指します。
- 耐震性が不足している
- 火災に対する安全性が不足している
- 外壁等が剥落し、危害を生ずるおそれがある
- 給排水管の腐食等により漏水が生じている
- バリアフリー基準に適合していない
つまり、客観的な劣化や危険性を示せる建物ほど、必要な賛成の割合が下がるという設計です。
5分の4と4分の3の差は、100戸のマンションなら80戸と75戸の差。この5戸が現場では決定的に効きます。
もうひとつ実務上大きいのが、所在等不明の区分所有者を決議の母数から除外できる制度です。
裁判所の決定が必要ですが、これにより「連絡が取れない住戸が反対票と同じ扱いになる」という長年の問題が解消されます。
相続が繰り返され所有者が追えなくなっている物件では、この制度の活用が前提になります。
4. 「建替え」を選ぶ場合の現実|費用負担・容積率・期間

建替えが成立するかどうかは、突き詰めると「区分所有者の追加負担がいくらになるか」の一点にかかっています。
現在の建物より容積率に余裕があり、住戸数を増やせる場合、増えた分を分譲した収入で事業費を賄えます。
負担ゼロ、あるいは少額の負担で新築に住み替えられるなら、賛成は集まりやすくなります。
逆に、すでに容積率を使い切っている、あるいは既存不適格で建て替えると今より小さくなる建物では、一戸あたり数百万円から1,000万円以上の負担が必要になることも珍しくありません。
期間も長期戦です。
管理組合内での検討開始から決議まで数年、決議後に建替組合を設立し、権利変換計画を作成し、解体・新築を経て再入居するまで、全体で7〜10年を要するケースが一般的です。
その間、区分所有者は仮住まいを確保する必要があり、高齢の方にとってはこの負担が判断を左右します。
なお、耐震性不足等で除却の必要性に係る認定(要除却認定)を受けたマンションでは、容積率の特例が適用される場合があり、事業の成立可能性が変わります。
建替えを本気で検討するなら、まず耐震診断と要除却認定の可能性を確認するのが出発点です。
5. 「解体して敷地を売却する」を選ぶ場合の現実

もうひとつの現実的な選択肢が、建物を解体して更地にし、土地を売却して代金を分配する方法です。
区分所有関係を清算して終わらせる、いわば出口の確定です。
この方法のメリットは明快です。追加負担が発生せず、むしろ手元に現金が残ります。
仮住まいの期間も、建替えのような長期にわたりません。区分所有者の年齢層が高く「新築に住み替えるより現金化したい」という意向が強い物件では、建替えより合意を得やすい傾向があります。
判断のポイントは手残り額です。
土地の売却代金から、解体費用、測量費、各種手数料、税金を差し引いた金額を持分で割ったものが、各区分所有者の受取額になります。
ここで効いてくるのが解体費用で、RC造のマンションを解体する費用は建物規模によって数千万円から億単位になります。
アスベストの有無、地下躯体の有無、進入路の条件によって数千万円単位で変わるため、早い段階で概算を把握しておかないと、分配額の試算そのものが成り立ちません。
実務上は、建物を残したまま「建物敷地売却決議」で買主に引き渡し、解体は買主側で行う形もあります。
この場合、解体リスクを買主が負う分、売却価格は抑えられます。更地にしてから売るか、現況のまま売るか
この比較検討は、解体費用の見積がなければできません。
6. どちらを選ぶか|判断を分ける5つの軸
① 容積率に余裕があるか
余裕があれば建替えの事業性が立ちます。なければ、負担金という高い壁が立ちはだかります。
② 立地の市場価値
土地の需要が強いエリアなら、売却による手残りが大きくなり、区分所有者の納得を得やすくなります。
③ 区分所有者の年齢構成と資金力
70代・80代が中心の組合で、7年後の再入居を前提とした建替えを提案しても、現実感を持ってもらうのは困難です。
④ 建物が「特定要件」に該当するか
耐震診断の結果次第で、必要な賛成割合が4分の3に下がります。これは合意形成の難易度を明確に変えます。
⑤ 管理組合の運営体制
理事会が機能しているか、総会の出席率はどうか、専門家に依頼する予算があるか。ここが弱い組合では、どの選択肢も前に進みません。
7. 合意形成の進め方|検討段階から決議までの実務
【第1段階】現況の把握(6か月〜1年)
耐震診断、劣化調査、アスベスト調査、そして解体費用と建替え費用の概算取得。
感覚ではなく数字で議論できる土台をつくります。
【第2段階】選択肢の比較と情報共有(6か月〜1年)
各案の費用・期間・手残り額を並べた資料を作成し、総会や説明会で共有します。
この段階でアンケートを実施し、区分所有者の意向分布を把握します。
【第3段階】案の絞り込みと専門家の関与(1年〜)
弁護士、マンション管理士、デベロッパー、設計事務所などと具体化を進めます。
並行して、所在不明の区分所有者の調査と、必要であれば裁判所への申立てを進めます。
【第4段階】決議(総会)
決議事項は法定されており、記載漏れがあると決議自体が無効になり得ます。
専門家の関与は必須です。
【第5段階】決議後の手続き
賛成しなかった区分所有者に対する売渡請求、組合設立、買受人との契約、解体・新築へと進みます。
8. 解体業者の視点から見た注意点

解体業者からすると、マンションの解体は、これまでにマンション解体の実績があって、現地調査をしっかりして、施工計画もある程度事前に話ができる業者さんをおすすめしております。
木造の戸建て住宅では、最近はAI見積りで現地調査をせずに、概算で見積りを出すようなサービスも出てきています。
ですが、マンションのようなRC造、SRC造ですと、しっかりした施工計画がないと、概算から大きく金額が変わってしまいます。
アスベストの調査は前倒しで。
1970〜80年代のRC造マンションでは、吹き付け石綿や配管の保温材が使われている可能性があります。
レベル1・2に該当すれば、除去工程だけで数週間から1か月以上、1,000万円以上費用も変わることがあります。
決議の前にこの数字が見えているかどうかで、計画の確度が違います。
工期は建物規模に比例します。
例えば、、RC造5階建て・延床800㎡規模で解体作業に2〜3か月、準備期間を含めて4〜5か月。
大規模な物件では半年以上を見込む必要があります。
もちろん、解体には全戸の退去完了が着工の絶対条件です。
賃貸に出されている住戸がある場合、区分所有者ごとに賃借人との立ち退き交渉が必要になり、これが全体スケジュールのボトルネックになります。
9. よくある質問
Q1. 決議に反対した区分所有者は、どうなりますか?
A. 建替え決議などが成立した場合、賛成した側から反対者に対して、区分所有権と敷地利用権を時価で売り渡すよう請求できる制度(売渡請求)があります。反対したからといってその住戸だけ残るわけではありません。ただし手続きには期限や要件があるため、専門家の関与のもとで進める必要があります。
Q2. 連絡の取れない区分所有者がいます。決議はできますか?
A. 2026年4月施行の改正法により、裁判所の決定を得たうえで、所在等不明の区分所有者を決議の母数から除外できるようになりました。従来は事実上の反対票として扱われ、決議成立を妨げていた部分です。ただし所在調査と裁判所への申立てが必要で、相応の時間がかかるため、検討の早い段階から着手してください。
Q3. 建替えと敷地売却、手元に残るお金はどちらが多いですか?
A. 一概には言えません。容積率に余裕があり増床分を分譲できる立地なら、建替えのほうが資産価値の面で有利になることがあります。一方、容積率に余裕がなく追加負担が発生する物件では、売却して現金を受け取るほうが合理的です。両案の収支を同じ前提で並べた試算をつくることが、判断の第一歩になります。
Q4. 解体費用は誰が負担しますか?
A. 更地にしてから売却する場合は、先に解体費用が発生します。建物を現況のまま売却する場合は買主が解体を行いますが、その分は売却価格に織り込まれます。どちらも最終的には区分所有者が負担するという点は変わりません。
Q5. 決議から解体着工まで、どれくらいかかりますか?
A. 売渡請求や買受人との契約、全戸の退去といった手続きを経るため、決議から着工までは通常1年以上を見込んでください。賃貸住戸が多い物件では、賃借人の立ち退きが加わりさらに延びます。解体工事そのものの準備(アスベスト調査、各種届出)は、退去が見えてきた段階から並行して進められます。
Q6. 賃貸に出している住戸の賃借人はどうなりますか?
A. 賃借人との関係は、区分所有者(貸主)と賃借人の賃貸借契約の問題です。建替え決議が成立しても、それだけで賃借人が退去する義務は生じません。借地借家法にもとづく手続きと、立ち退き交渉が別途必要になります。ここを見落とすとスケジュールが大きく狂います。
Q7. 修繕積立金が足りません。解体費用は出せますか?
A. 積立金だけで解体費用を賄えるケースはほとんどありません。実際には、区分所有者が持分に応じて負担するという形になります。だからこそ、正確な解体費用を把握し、分配額の見通しを示すことが合意形成の前提になります。
Q8. 入居者がいる状態でも、解体の見積は取れますか?
A. 取れますが概算になってしまいます。構造や壁の厚さがわかる図面と外観・共用部の調査でお見積りをお出しできます。が、入居者がいると室内のサンプリング採取(壁を一部削るなど)ができないため、アスベストが含まれている前提の高めの見積もりになるか、別途「アスベスト処分費用は除く」という条件付きの見積もりになります。
10. まとめ
2026年4月の改正で、老朽化マンションの選択肢は明確に広がりました。
建替え一択ではなく、取壊し、建物と敷地の売却、一棟リノベーションという道が、多数決で選べるようになっています。
耐震性不足などの要件に該当すれば、必要な賛成割合も4分の3に下がります。
とはいえ、制度が整っても合意形成の難しさが消えるわけではありません。
前に進む組合に共通しているのは、早い段階で数字を揃えていることです。
「耐震診断の結果、解体費用の見積もり、建替えた場合の負担金、売却した場合の手残り」
この4つが並んで初めて、区分所有者は自分の立場で判断できるようになります。
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「募集停止の判断、耐震診断、解体費用の把握」
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「建物を壊して更地になってしまえば、どこに頼んでも同じ。」
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